土地から、ワインを考える世代
最初から「この土地で」始めた、新しい作り手たちの視点
著者
JOUKEI編集部
公開日
2026年5月29日
かつての日本ワインには、「世界へ追いつく」という大きなテーマがあった。けれど今、新しく畑へ入っていく世代は、少し違う場所から始めている。最初から「この土地で、どうワインを作るか」を考えている。
かつての日本ワインには、 「世界へ追いつく」という大きなテーマがあった。 本格的なワインを作ること。 品質を上げること。 欧州へ近づくこと。 その積み重ねがあったからこそ、 今の日本ワインがある。
けれど今、 新しく畑へ入っていく世代は、 少し違う場所から始めている。 彼らは最初から、 「この土地で、どうワインを作るか」 を考えている。
それは大きな変化だった。
以前の日本ワインは、
どこか"外側"に基準があった。
フランス。
イタリア。
世界基準。
けれど今の若い世代は、
もっと自分たちの足元を見ている。
この土地の気候。
この土地の水。
この土地の土壌。
この土地で育つ植物。
風。
湿度。
微生物。
そこからワインを考え始めている。
もちろん、 その背景には、 前の世代が残した思想がある。 岡本英史。 曽我貴彦。 大岡弘武。 そして、 全国で"農"へ向かっていった作り手たち。 彼らが、 「土地を見る」 という感覚を残した。 次の世代は、 その感覚を受け継いでいる。
ただ、
継承は単なる模倣ではない。
今の若い作り手たちは、
もっと自由だ。
クラシックなワインだけではない。
自然派だけでもない。
アンフォラ。
オレンジワイン。
ペティアン。
混植。
ハイブリッド品種。
実験的な醸造。
世界中の多様な価値観を自然に取り込みながら、
それでも"日本の土地"へ向かっている。
また、 今の世代は最初から、 「小さく始める」 感覚を持っている人も多い。 大量生産ではなく、 小規模。 効率より、 土地との距離感。 会社として拡大することだけではなく、 「どう生きるか」 と、 「どう作るか」 が繋がっている。
実際、
今の日本ワインの世界には、
異業種から入ってくる人も多い。
料理人。
ソムリエ。
IT業界。
デザイナー。
建築。
飲食。
アート。
様々な背景を持つ人たちが、
畑へ向かい始めている。
それは単に、
ワイン市場が伸びているからではないと思う。
もっと根本的に、
"土地と繋がった仕事"
を求めている人が増えているのかもしれない。
また今の世代は、 「ワインだけ」を見ていない。 野菜。 発酵。 チーズ。 レストラン。 宿。 林業。 建築。 器。 地域文化。 風景全体を見ている人が多い。 ワイン単体ではなく、 "土地の文化" そのものを作ろうとしている。
これは、
ヨーロッパの古いワイン文化とも少し違う。
日本には、
まだ固定されたワイン文化がない。
だからこそ逆に、
自由がある。
余白がある。
新しく作れる。
今の日本ワインには、
そういう面白さがあると思う。
また、
インターネットやSNSの存在も大きかった。
かつては、
地域ごとに閉じていた情報が、
今は全国で共有されている。
小さなワイナリー同士が繋がる。
栽培を学び合う。
醸造を相談する。
自然災害を共有する。
その横の繋がりが、
日本ワイン全体の成長速度を大きく変えている。
もちろん、
課題も多い。
気候変動。
病害。
人手不足。
資材高騰。
後継者問題。
そして、
日本の自然環境そのものの厳しさ。
毎年同じようにはいかない。
だからこそ、
ワインは不安定でもある。
けれどその"不安定さ"を、 ネガティブではなく、 「土地の表情」 として受け止めようとする感覚も、 少しずつ広がっているように感じる。 完璧ではないこと。 揺らぐこと。 変化すること。 自然と共にあること。 それらを含めて、 ワインとして受け止めていく。
そして今、 日本ワインは少しずつ、 海外からも注目され始めている。 けれど面白いのは、 多くの作り手たちが、 「世界で評価されること」 そのものだけを目指しているわけではないことだと思う。 むしろ、 「この土地を、ちゃんと表現したい」 という感覚の方が強いように見える。
次の世代は、 最初から土地を見ていた。 それは、 日本ワインがようやく、 「世界を真似する文化」 から、 「自分たちの風土を表現する文化」 へ変わり始めたことを意味しているのかもしれない。
日本ワインはまだ若い。
だからこそ、
今も景色が変わり続けている。
そしてその変化の途中に、
今の世代がいる。
参考文献
- 『ウスケボーイズ』河合香織
- 『日本ワイン 誕生と奇跡』山本博
- 各ワイナリー公開インタビュー
- 日本ワイナリー協会資料
- 『リアルワインガイド』日本ワイン特集
- 日本ワイン関連メディア・インタビュー資料